ナイフ、フォーク、スプーンのセット

1875年に英国で作られたすばらしいセットです。
このタイプは,子供の洗礼のお祝いにプレゼントとして作られたとか,
あるいは旅行用の携帯セットだったとか、いろいろ言われていますが、
これは間違いなく洗礼のお祝いセットだと思います。
表も裏もいっぱいに見事なエングレーヴィングがはいっています。

ナイフの長さが20.5cmあるので、実用にも使えますが、
使うのがためらわれるような美しさです。
特にナイフは、表裏ともくっきりした深い彫りがはいっています。
そのためか、ほとんど使われた形跡がありません。

日本では明治8年。大英帝国が、
まさにその繁栄の頂点を迎えようとしていた元気のよい時代なので、
それがこのセットの出来にも表れているような気がします。

メーカーはMartin, Hall & Co.で、工房の歴史は1820年から。
ジョン.ロバーツが始めた工房で、
子供のいなかったジョンは、地元の中学校の校長に手紙を書いて、
頭の良い生徒がいたら紹介してほしい、と頼みます。

そこで紹介されたのが、当時16歳のエべネザー.ホール(Ebenether Hall)でした。
彼はめきめきと腕を上げ、ジョンの引退後はRichard Martinが加わって、
Martin, Hall& Co.と工房の名を改めます。
製品は,ティーセットや宗教儀式用の大きな物から、
精巧で細かな細工をしたスプーンまで幅広く多岐に渡り、
1851年のロンドン万博(世界で最初の万国博覧会)にも出品して好評を得るなど、
ヴィクトリアンを代表する工房のひとつとなっています。