昨年から今年初めにかけて、お客様のリクエストにより、ジョージアンのティーキャディセット2つが、相次いで旅立って行きました。
いずれも大変素晴らしいもので、いつかご紹介したいと思っていました。
これまでに扱ったジョージアンのティーキャディについて記しておきます。
まず1754年ジョージ2世時代のティーキャディセット。Samuel Taylor, London.1754.
ティーキャディとシュガーボウルのセットになります。
ティーキャディは、底部分をずらして開けることができます。
紅茶リーフを入れやすいという利点があり、当時はこのタイプのものがよく見られました。
箱はジョージ2世時代のオリジナルではなく、1820〜30年代リージェンシー時代に新しく作られたもので、象嵌細工が大変見事です。
結婚の贈り物になることも多かったようですから、より美麗な箱に仕立てたのでしょうね。
仕入れた際、象嵌細工に乱れがありました。
これを修理できる職人を探したのですが、なかなか見つからず、仕上がるまでに大変時間がかかったお品です。
一方、下の画像、黒い箱に入っているのは1767年のティーキャディ3点セットです。
こちらも同じメーカーで、Samuel Taylor,London,1767.
ティーキャディ2つとシュガーボウル1つがセットされています。
ジョージ3世時代のものですが、箱も当時オリジナルのすばらしいものです。
銀器に比べて、それを収める箱の方は早期に傷みやすく、オリジナルが現代にまで残っているのは大変稀なことです。
表面には、エイの皮(shagreen、と呼ばれます)が貼られており、装飾はスターリングシルバー、ピアッシングとエングレーヴィングが施されています。
エイの皮は、鮫皮などと言われることもあるようですが、正確には、赤エイの皮を剥いだものです。
哺乳動物の皮革とちがって、ザラザラした手触りで、つぶつぶ模様は小さな鱗?といった感じでしょうか。
エイの皮とスターリングシルバーの装飾が飾られたふたを開けると、両側にティーキャディが2つ、真ん中にシュガー入れ。
3点とも、トップに愛らしいデイジーのつまみがついています。
このようなお品は、結婚をはじめとするお祝い事の記念として、贈られることも多かったようです。
ビクトリア時代に比べ、ジョージアン時代はまだ流通している銀の量もはるかに少なく(1/10程度)、贅を凝らした銀器を所有できるのは王侯貴族に限られていました。その時代に作られたティーキャディは、豊かさの象徴で、まさに家宝のような存在でした。
はるばるインドや中国から運ばれてくる紅茶も、英国に到着するまでに半年から1年もかかっていたそうですから、ようやく届いたお茶は、まるで宝石を扱うように、こんな箱にしまわれていたのです。
以下は、これ迄に扱った、ジョージアン時代の単品のティーキャディです。
いずれも、元々は上記のような美麗な箱に収められていたものが、様々な事情により、ちりじりになって、アンティーク市場に出てきました。
1755年ジョージ2世。
1765年ジョージ3世。
1763年ジョージ3世)